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雪が降る日に

昨日の昼頃から降り出した雪が夜にはすっかり積もって銀世界。

雪が降ると、私はある日本の昔話をいつも思い出してしまうのです。

もちろん昨日も「雪ってやさしいんだよんねぇ・・」と思いながら

雪の舞う中家路につきました。

『あとかくしの雪』

 

むかし、とても貧しい村がありました。もとは、ゆたかな村でしたが、何年か前に山が噴火して、作物がとれなくなってしまったのです。

ある秋の日のこと、この村に、お腹をすかせた旅人がへとへとになってたどりつきました。旅人はしばらく何も食べていなかったので、りっぱな庭のある屋敷の戸をたたいて、食べものをわけてもらえないかと頼みました。

ところが、出てきた主人は「だめだね、庄屋のわしだってイモの雑炊しか食えないのだ」「イモのしっぽだけでもいいんです」「人に食わせるものなど何もないよ。それからいっておくが、わしの畑からイモを1本でもぬいてみろ、代官所送りだぞ。近ごろ、村のやつがちょくちょくわしの畑のイモを盗むのじゃ。でもな、だれがやったかすぐにわかる。足あとが火山灰につくからじゃ。作物をだめにした火山灰だが、泥ぼうを捕まえるには、こんな便利なものはない。この貧乏村をあきらめて、山むこうの村へ行くことじゃな」と、旅人を追い返しました。

しょんぼり庄屋の家を出た旅人は、山を越える元気もなく、むだだとわかりながら村の家を一軒ずつたずねてみました。でも、やっぱり食べものをわけてくれる家はありません。やがて日も暮れて、歩きつかれた旅人は、村はずれのあばらやを借りて一晩の宿にしようと、小屋の戸を開けました。すると、一人のおばあさんが出てきました。幸運にも、おばあさんは心のやさしい人でした。雑草の雑炊でしたが、自分の食べる分を、旅人にみんな分けてあげたのです。でも、旅人のお腹はペコペコのままです。おばあさんにすまないと思いましたが、何か他に食べるものがないか頼みました。家には、もう何もありません。おばあさんは、このかわいそうな旅人に、何か食べさせてあげたいと思ったのでしょう。おばあさんは、何か決心したように家を出て行きました。

しばらくしてもどったおばあさんの手には、何本かのイモがありました。おばあさんは、旅人のためにそのイモを煮てあげたのです。旅人はおがむようにして、イモをおいしそうに食べ、何日かぶりに腹がいっぱいになりました。

翌朝、まだ夜もあけないうちのこと。おばあさんは、旅人を起こすと、急いで旅ださせようとしました。旅人は、おばあさんに深くお礼をいいました。ふと、地面に残っている足あとに気がついて、はっとしました。おばあさんの足あとが、あのいじわるな庄屋の畑の方へ続いているのです。

「おばあさん、あのイモは…」「よけいな心配はしなくていいの。早く山を越えて、むこうの村へいきなさい」と、しかりつけるように旅人にいうと、戸をバタンと閉めました。

ちょうどその頃、早起きの庄屋は、いつものように自分の畑のみまわりをしていました。(やや、イモを盗んだやつがいる。どこのどいつだ。うーん、この足あとは村はずれのばあさんのだな。もう、ゆるさない)。たしかに足あとは、おばあさんの小屋

のほうへ続いています。

庄屋は、すぐに代官所へ訴え出ようと思いました。でも、その朝はいつになく寒くて、しんしんと冷えこんでいました。(どうせ足あとは消えないから、大丈夫だ)と、家にもどっていっぷくしていました。やがて、日の出の時刻になって、(さて、代官所のお役人さんもやってきたころだろう、そろそろ出かけるとするか)と、戸をあけたところ、いちめんの雪げしきでした。(ややや、足あとが消えてしまっとる。何たることじゃ──)

さあ、だれが雪をふらせたのでしょうか。

9 Responses to “雪が降る日に”

  1. チカヒ Says:

    日本のお話って素敵だと思う
    本当にしみじみ思います
    最近涙腺ゆるいのか
    このお話と写真見てたら、涙がツーと

    雪の降る日の、特に夜のシーンとした静けさ
    何かもを覆ってしまい、あたり一面の光々しさが大好きです

  2. energy Says:

    チカヒちゃん
    私も同感。
    キンキンに寒い雪の日の視界が開けた感じ
    好きだな。そしてなんとなく温かく感じるのが不思議。

    ※業務連絡、mixi見てくださーい。

  3. Lotus Sound Says:

    なんて素敵なお話。絵がないのに、情景が浮かぶような描写。そして人の思いやりがじんわりと伝わってくる。私は地方の昔話絵本集を持っていて、その本には花咲か爺さんなどのよく知られたお話もありますが、なんと言い伝えられている地方の言葉で書いてあるのです。以前は気にもとめていなかったけど、日本の昔のくらしってこうだったんだなぁとか感慨深げに読んだりします。チカヒさんもおっしゃっていましたが、日本のお話って素敵です。

  4. hime Says:

    こんにちは。
    私も雪にまつわる日本の昔話や童話が大好きです。
    『あとかくしの雪』、いいですねェ。キョーコさんのお陰でこの素敵なお話を久々に思い出すことができました。感謝。
    私にとっての思い出のお話は『かさ地蔵』とか新美南吉の『手ぶくろを買いに』でしょうか。
    これらのお話に触れると、山本高広じゃないけど「日本に生まれてきて良かった~!」と思います。

    懐かしい光景が雪化粧をまとった画像にもじーんときてしまいました。
    ふるさと福岡。望郷の念がつのります。

  5. energy Says:

    LotusSoundさま
    それは素敵な本ですね。
    異国の地で読む日本の昔話ってお子さんにどんな風に響くのでしょうね・・・
    幼少期の記憶が今の思考にかなり影響していることを最近しみじみと感じます。人って変われない・・・とはこういうことなのでしょうか。

    himeさま
    『かさ地蔵』『手袋を買いに』これまたよいお話しでしたね。そうやってすぐに思い出せる話しがあるって豊かなことだと思います。
    あの写真は冷泉荘前の小道と冷泉公園、とてもきれいな夜の公園でしたよ。
    お三人さんの暮らす異国の地に、それぞれの日本の心があるんですね。
    なんだかほっこりとします、私。

  6. miyu.k Says:

    情景が浮かんできますね。
    24日の雪は、新年初雪。寒かったですが、とてもきれいでしたね。
    こんな昔話を思い出す恭子ちゃんの感性が好きだなぁ・・このお話初めて聞きました。
    昔話はいつのまにか市原悦子さんに朗読してもらっている感覚になるのは私だけでしょうか。

    私は太宰府にいましたが、山々に降ってくる雪が幻想的でした。気持ちもほっこり、そして洗われる気がしました。そして子供のようにワクワクしました。

  7. energy Says:

    miyu.kさま
    そうなんですよ、4ch(RKB-TBS)の土曜日夜7時の『日本昔ばなし』で私も知ったお話し、市原悦子さんが朗読してたんでしょうね!(そのことは忘れていますがっ)
    雪がそこまで積もることのない土地に住んでいるから新鮮だったのか、何故か思い出す話しなんですよね・・・他にも『そこつそうべい』とか好きでした。
    太宰府はまたまた雪深かったんじゃないですか??
    雪景色が似合うところですよね〜

  8. miyu.k Says:

    「そこつそうべい」??知らないお話です。
    私とか「雪女」を思い出します。これって性格の違いでしょうね。冷たいのかしら。。

    太宰府は九州国立博物館に行きました。
    あそこから見下ろした景色は水墨画のような白と黒の世界でした。

  9. energy Says:

    miyu.kさま
    『そこつそうべい』はマイナーな話しだと思いますよ。
    雪山に囲まれるなんてめったにないことですよね、
    ここ南国福岡では!

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